研究の競争力は、「最初の発見」だけでは決まらない
研究の世界では、「誰が最初に見つけたのか」が大きな意味を持ちます。
今回の日経新聞の記事では、2026年のノーベル生理学・医学賞のテーマとなった光遺伝学をめぐり、日本の研究者もかなり早い段階から重要な成果を出していたことが紹介されています。
東北大学の八尾寛名誉教授は、光を感知するたんぱく質を使って神経細胞の活動を操作する研究を進め、2005年には論文を投稿していました。ただ、査読などに時間がかかる間に、米スタンフォード大学のカール・ダイセロス教授らの論文が先に発表されました。
ここだけを見ると、論文を早く出せるかどうかが明暗を分けたようにも見えます。
ただ、記事を読み進めると、それだけではなさそうです。
最初の発見と、研究の潮流をつくることは別の力
光遺伝学は、その後、脳神経科学の研究に欠かせない手法の一つになりました。
その発展には、神経科学だけではなく、遺伝子導入、光学装置、たんぱく質研究、構造解析など、さまざまな分野の技術が必要でした。
記事では、ダイセロス教授の周囲に多様な専門を持つ研究者が集まり、それぞれの技術が組み合わさって研究が広がっていった様子が紹介されています。
一つの研究成果が出たあとに、別の分野の研究者が加わり、新しい実験手法が生まれ、さらに別の研究へ使われていく。
この連鎖ができると、一つの発見は研究分野そのものへ育っていきます。
研究の競争力というと、優れたアイデアを生み出せるか、画期的な発見ができるかに目が向きます。
もちろん、それは重要です。
ただ、科学が複雑になるほど、一人の研究者、一つの研究室だけで大きな流れを作ることは難しくなっています。
最初の発見の周りに、どれだけ異なる専門や技術、人を集められるか。研究成果を、ほかの研究者が使える形へ広げられるか。
そこまで含めて、研究の競争力を考える必要があるのかもしれません。
異分野とつながる余白をどうつくるか
記事では、日本の学際研究への参加が、中国や英国、ドイツなどと比べて少ないことも紹介されています。
背景には、大学や研究室の縦割りだけではなく、若手研究者を取り巻く環境もあります。
任期のあるポストの中で成果を出し、論文を書き、次のポストにつなげなければならない。そうした状況では、成果が出るか分からない異分野との共同研究に時間を使うことは、簡単ではありません。
研究者個人に「もっと異分野と交流すべきだ」と言うだけでは解決しないのでしょう。
異なる分野の研究者が出会う場所があること。時間をかけて共同研究できること。まだ成果が見えない段階でも挑戦できること。そして、国内だけではなく海外の研究者ともつながること。
そうした環境があって初めて、一つの発見の周囲に新しい研究が集まってきます。
以前、iPS細胞の特許について取り上げた際には、研究成果を知財やライセンスを通じて、次の研究へどうつなげるかを考えました。
今回の記事から見えるのは、もう一つの循環です。
研究成果の周りに人が集まり、異なる技術が組み合わさり、そこからまた新しい研究が生まれる。
最初の発見をする力と、その発見を大きな研究の流れへ育てる力。
研究の競争力を考えるとき、これからはその両方を見る必要があるように思います。
今回参考にした記事はこちらです。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOSG0611A0W6A001C2000000/