子宮頸がんは、「なくせるがん」になるのか

がんという病気について考えるとき、どう治すかという話が中心になります。

手術、放射線、抗がん剤、分子標的薬、免疫療法。より良い治療を開発し、少しでも長く生きられるようにする。その積み重ねで、がん医療は大きく進歩してきました。

一方で、子宮頸がんは少し違う段階に入りつつあるのかもしれません。

今回の日経新聞の記事では、英国でHPVワクチン接種が広がった世代において、2020〜2024年の5年間、20〜24歳の女性では子宮頸がんによる死亡がゼロだったという研究結果が紹介されています。

もちろん、観察研究であり、今後も死亡が完全にゼロになるという意味ではありません。それでも、研究者自身が予想していた以上の結果だったと述べています。

HPVワクチンが子宮頸がんや前がん病変を減らすことは、これまでにも多くの研究で示されてきました。今回少し違うのは、その先にある「死亡」まで実際のデータで見え始めたことです。

「治せるか」ではなく、「そもそも起こさない」

子宮頸がんの多くは、ヒトパピローマウイルス、HPVへの感染がきっかけになります。

そのため、感染前にワクチンを接種し、検診と組み合わせることで、がんになる人そのものを大きく減らせる可能性があります。

この点で、子宮頸がんはほかの多くのがんとは少し違います。

がんになった患者をどう治療するかだけではなく、がんになる人を減らすことができる。

今回の英国のデータは、それが理論上の話ではなく、実際の社会で見え始めていることを示しています。

「がんによる死亡を減らす」という目標から、さらに一歩進んで、「そのがん自体を公衆衛生上の大きな問題ではなくす」という考え方です。

子宮頸がんは、「なくせるがん」になるのか。

少なくとも医学的には、その可能性がかなり現実的になってきたように見えます。

科学的にできることと、社会で起きることは同じではない

ただ、ここからが難しいところです。

記事では、英国でワクチン接種が大きく広がった最も若い世代では、12〜13歳での接種率が88〜90%だったと紹介されています。

一方で、接種率がそれほど高くない地域や国もあります。

ワクチンそのものが高い効果を持っていても、必要な人に届かなければ、その効果は社会全体には広がりません。

接種できる場所があるか。費用負担はどうか。保護者や本人が正しい情報に触れられるか。副反応への不安や誤情報にどう向き合うか。医療へのアクセスが限られた地域にどう届けるか。

技術としてのワクチンが完成に近づくほど、今度はこうした問題が目立つようになります。

これまで医療イノベーションでは、「新しい治療を作れるか」という問いが中心でした。

しかし、すでに有効な手段が存在する病気では、次の問いは少し違います。

その技術を、誰にでも届く状態にできるか。

科学ができることと、社会で実際に起きることの間をどう埋めるか。

子宮頸がんを本当に「なくせるがん」にできるかどうかは、ワクチンの性能だけで決まるものではありません。

医学がここまで進んだからこそ、今度は社会の側がどこまでその価値を届けられるかが問われているのだと思います。

今回参考にした記事はこちらです。

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOSG248HJ0U6A920C2000000/