研究成果を、大学の次の研究につなげられるか

京都大学のiPS細胞に関する特許が、少し意外な節目を迎えています。

京都大学は、iPS細胞の製造に関する基本特許について、権利を5年間延長する申請を出しました。2006年に国際出願されたこの特許は、原則であれば2026年末に期限を迎えます。医薬品への応用を理由に延長が認められれば、2031年まで権利を維持できる可能性があります。

今回の日経新聞の記事で印象に残ったのは、特許の延長そのものよりも、その間に大学へ戻ってきた金額です。

京都大学がこれまで得た知財収入は累計で120億円あまり。そのうち80億円超がiPS細胞関連の特許によるもので、国内の大学発特許として最大規模だとされています。

iPS細胞という研究成果が、論文やノーベル賞だけではなく、20年近い時間をかけて特許、ライセンス、製品へとつながり、大学にも収入を戻してきました。

研究成果を社会につなぐには、知財が必要になる

iPS細胞の研究については、山中伸弥教授による科学的な成果がまず思い浮かびます。

ただ、今回の記事を読むと、その成果を社会へつなぐ仕組みも早い段階から作られていたことが分かります。

iPS細胞研究所には知財部門が置かれ、研究者と知財担当者が同じ建物の中で日常的にコミュニケーションできる環境が作られました。研究成果が公表された後で特許を考えるのではなく、研究が進む段階から知財を意識できるようにしていたわけです。

その積み重ねが、企業へのライセンスにつながりました。

そして2026年には、iPS細胞由来の細胞を使ったパーキンソン病治療薬や重症心不全向け製品が実際に承認されています。

研究、特許、企業への技術移転、製品化。

こうして並べると、大学で生まれた研究成果が患者に届くまでには、研究だけではない多くの仕組みが必要なのだと分かります。

一つの大きな成功だけでは続かない

一方で、今回の記事は別の課題も示しています。

京都大学の知財収入のかなりの部分をiPS細胞が占めています。そして、特許には期限があります。

延長が認められたとしても、基本特許の権利はいつか切れます。その後はライセンス収入が大きく減る可能性があり、京都大学はiPS細胞に続く研究テーマを探しています。

これは少し製薬企業にも似ています。

大きな製品が生まれても、その特許はいつか切れる。だから次の研究開発を続けなければならない。大学が知財収入を研究活動の一つの支えとして考えるのであれば、同じように次の研究成果を育てていく必要があります。

もちろん、大学の研究を「いくら稼げるか」で評価すればよいという話ではありません。

すぐに社会実装されない基礎研究もありますし、研究を始めた段階で経済的価値が分かるとは限りません。むしろ、そうした研究の中から思いがけない成果が生まれるのが科学でもあります。

ただ、社会につながる可能性を持った研究成果については、適切に知財として守り、企業などへ渡し、その価値の一部を大学へ戻すことができる。

そして、その資金がまた次の研究を支える。

iPS細胞の20年を振り返ると、研究成果を生み出すことと、その成果を次の研究につなげることは、本来ひと続きなのかもしれません。

大学の研究力を高めるというと、研究費をどう増やすかという議論になりがちです。ただ、すでに生まれた研究成果の価値をどう社会につなぎ、どう大学へ戻すかも、これからの大学研究を考えるうえで重要になっていくように思います。

今回参考にした記事はこちらです。

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB030BS0T00C26A9000000/