再生医療は、研究から産業へ進めるか
再生医療という言葉を聞くと、iPS細胞をはじめとする日本発の研究成果を思い浮かべる方も多いと思います。
長い間、日本にとって再生医療は「研究で強みを持つ領域」という印象がありました。ただ、今回の日経新聞の記事を読むと、少し違う段階に入り始めているように見えます。
2026年には、iPS細胞由来の細胞を使ったパーキンソン病治療薬や重症心不全向けの製品など、複数の再生医療製品が日本で承認されました。細胞・遺伝子治療の世界市場は2040年に12兆円規模になるとの予測もあり、政府も「創薬・先端医療」を戦略分野の一つに位置づけています。
研究成果が論文や臨床試験の中にとどまらず、製品として患者に届き始めています。
研究成果が製品になると、必要なものが変わる
ここから先に必要になるのは、優れた研究だけではありません。
細胞治療では、生きた細胞そのものが製品になります。細胞を培養し、品質を一定に保ち、必要な場所まで輸送する。製品によっては手術を伴い、投与できる医療機関も限られます。
低分子医薬品のように、工場で大量に製造し、同じ製品を世界中に届けるというモデルとはかなり違います。
だからこそ、製造を担うCDMOへの投資が重要になります。記事では、帝人グループが細胞治療製品の製造施設を整備し、CAR-TやiPS細胞を使った製品の受託製造を拡大していることが紹介されています。
再生医療では、製造は研究開発が終わった後の工程ではありません。どう作るか、品質をどうそろえるか、どの程度の規模まで生産できるか。それ自体が、製品を成立させる技術の一部になっています。
前回取り上げた個別化mRNAがんワクチンでも、一人ひとり違う薬をどう短期間で作り、届けるかが課題になっていました。新しいモダリティが実用化に近づくほど、「何を作るか」と同時に「どう作るか」の重要性が高まっているように感じます。
日本の研究の強みを、産業の強みにできるか
日本では、再生医療の研究に長い蓄積があります。そして2026年には、iPS細胞を使った複数の製品が実際に承認まで進みました。
ただ、承認された製品が出てきたことと、再生医療が産業として成立することは同じではありません。
今回紹介されている製品には、1回の治療で5000万〜7000万円を超えるものもあります。製造コストをどう下げるのか。品質を保ちながら生産量を増やせるのか。専門的な治療を提供できる医療機関をどう増やすのか。そして、日本で生まれた技術を海外市場へどう広げるのか。
こうした課題を越えなければ、研究成果が増えても、産業として大きく育つとは限りません。
また、細胞治療では日本から世界初の製品が出始めている一方で、遺伝子治療では米国などに比べて遅れているとも指摘されています。再生医療という一つの言葉で、日本全体が強いと見るのも少し違うのでしょう。
それでも、研究、スタートアップ、製造拠点、政策支援が同時に動き始めている今は、一つの節目なのだと思います。
研究で新しいものを生み出すことと、それを安定して作り、患者へ届け、事業として継続すること。その間には、思っている以上に長い距離があります。
日本の再生医療は、その距離を越えて、研究の強みを産業の強みへつなげられるのか。相次ぐ承認はゴールというより、その問いに答え始めるスタートなのかもしれません。
今回参考にした記事はこちらです。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB030BS0T00C26A9000000/