先端医療では、「薬」だけでなく「医療インフラ」が競争力を左右

今回紹介するのは、米ブリストルマイヤーズスクイブ(BMS)が日本でCAR-T細胞療法の生産を開始するというニュースです。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC036K90T00C26A3000000/
ニコン子会社と連携し、東京都内に生産拠点を設け、2030年までに年間2000人分の生産能力を確保する計画と報じられています。

CAR-T細胞療法は、患者から採取した免疫細胞(T細胞)に遺伝子を導入し、がんを攻撃する力を高めて体内に戻す治療法です。血液がんでは7割程度の患者に効果があるとされ、近年大きな期待を集めている先端医療の一つです。
しかしCAR-Tの普及を制約してきたのは、研究ではなく製造でした。日本ではこれまで、患者から採取した細胞を海外の製造施設に空輸して加工し、再び日本に戻す必要がありました。この工程には1〜2カ月かかることもあり、その間に患者の病状が悪化するケースも指摘されています。

国内製造が実現すれば、この時間を大幅に短縮できる可能性があります。CAR-Tのような細胞医療では、製造能力そのものが医療アクセスを左右する重要なインフラになるためです。
ただし、CAR-Tの普及は製造能力だけで決まるわけではありません。医療機関側では、細胞管理や専門スタッフの確保、重篤な副作用への対応など高度な体制が必要になります。一方で現行の診療報酬では十分にカバーされないという指摘もあり、医療提供体制の負担が課題として議論されています。

つまりCAR-Tの普及には、研究開発だけでなく、製造インフラ、医療提供体制、そして医療制度という複数の要素が関係しています。先端医療の時代には、「薬を作ること」だけではなく、「医療を届ける仕組み」そのものが競争力を左右するようになっているのかもしれません。