ドラッグラグの先で進むドラッグロス――日本市場の「遅れ」ではなく「事業性」が問われている

ドラッグラグ・ロスをめぐる議論は、少しずつ重心を変えています。PMDAの審査期間短縮や制度整備によって、日本の新薬審査は以前より大きく改善してきました。標準総審査期間は優先審査で9カ月、通常審査で12カ月が目安とされ、承認からNHI収載までも原則60日、遅くとも90日です。少なくとも「日本は審査が遅いから入れない」というだけでは、今の現実は説明しきれなくなっています。

いま前面化しているのは、むしろドラッグロスです。PMDAは、2023年3月時点で米欧で承認されているのに日本では未承認の143品目のうち、86品目は日本で開発が始まっていないと示しています。厚生労働省も、欧米で承認されているが国内では承認されておらず、かつ国内開発未着手の品目を「ドラッグ・ロス品目」として整理しています。つまり問題は、承認の遅れそのものより、そもそも日本が開発ロードマップに入っていないことへ移っています。

問われているのは、承認の速さではなく市場としての成立性

この変化を、単に「海外企業が日本を後回しにしている」と受け取るだけでは足りません。企業や投資家が見ているのは、どこで最初に価値を立ち上げ、どこで次の資金調達や事業拡大につなげられるかです。そう考えると、日本の課題は薬事だけではなく、承認後の事業性まで含めた市場設計にあります。審査が改善しても、薬価制度や収益見通し、制度変更リスクを織り込んだときに資本効率が見えにくければ、日本は「入るのが遅い市場」ではなく「最初から入れない市場」になっていきます。

実際、厚労省の議論でも、日本市場の魅力度や投資優先度がドラッグラグ・ロスに影響するという問題意識はすでに明示されています。2024年の中医協資料では、制度改革後も投資優先度に大きな変化がない企業が一定数存在することが示され、2025年の議論でも、他国と比して魅力度が劣らない市場であることが必要だという意見が記録されています。ここでの論点は、薬価が高いか低いかではなく、企業が日本で事業を組み立てる絵を描けるかどうかです。

Japan Passingは懸念ではなく、すでに始まっている

この文脈で見ると、いわゆるJapan Passingは将来の懸念ではなく、すでに一部で現実化している現象です。ドラッグラグの改善は重要でしたが、それだけではドラッグロスは止まりません。なぜなら、ドラッグラグは審査運用の問題ですが、ドラッグロスは開発企業から見た日本市場の位置づけの問題だからです。承認の速さだけを磨いても、承認後に事業として成立する見通しが弱ければ、日本は開発戦略の外に置かれ続けます。

今回の記事が示唆しているのは、まさにこの点だと思います。ドラッグラグ・ロスを「遅れ」という言葉で一括りにすると、問題の本質を見誤ります。いま問われているのは、日本が審査の速い国であるかどうかではなく、開発企業や投資家にとって、最初から組み込む意味のある市場であり続けられるかどうかです。ドラッグロスが顕在化している今、日本に必要なのはスピードの改善だけではありません。事業として成立する市場だと認識されるための制度全体の再設計です。

今回参考にした記事はこちらです。
https://bio.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/082300012/041800206/